253 Episode 173: Proof Of Wheel And Power
建物は西洋風だし、チャイナドレス以外の服は基本的に他の国と大差がない。
チャイナドレスだけが広まっていると言う事は、恐らく勇者の趣味なのだろう。
……悪いとは言わない。決して、悪いとは言わない。
「あんまり、観光名所的な場所は無いな」
「観光収入を当てにしていないのでしょう。仁様には好ましくないかもしれませんが……」
俺が少し残念そうに呟くと、マリアがその理由を推測した。
『自立』が主義って言っていたし、その可能性は高いな。
「まあ、そういう土地として、楽しむのが吉だな」
「ご主人様、観光に関しては意外とポジティブよね」
「観光で訪れている以上、その土地の風習や特性は出来るだけ尊重したいからな」
観光名所がないくらいで不満は言いません(多分)。
「ただ、一部例外はあるぞ。例えば、不条理に不利益を与えるような物とか」
《ドーラのこきょー?》
「そだな」
『竜人種(ドラゴニュート)の秘境』には、「侵入者は殺す」的なルールがあった。
そう言う理不尽なルールを尊重する気はない。
結局、名所がない以上、出店を見て回る事にした。
国境近くの街と言う事も有り、人通りが多く、数多くの店が並んでいる。
街の広場には、バザーの様に地面に商品を置いている露店が多い。
食べ物を売っている屋台も多い。
「食べ物を買ってきますわ!」
《ドーラもー!》
「え、まだ食べるの?セラちゃんはともかく、ドーラちゃんまで?」
驚きつつ、食べ物への興味があるミオもセラとドーラに付いて行った。
あの2人の胃袋は底なしなのだろうか?
流石にもう食欲は無いので、俺達3人は露店を見て回る。
「人が多いと、珍品も多いな」
「そうですね……。あれは……土偶……?」
普通にアクセサリを売っている者もいれば、良く分からない骨董品のような物を売っている者もいる。
さくらが見ているのは、土偶……違う、あれは埴輪(はにわ)だ。
普通の商品の横に埴輪が大量に並んでいる。
いや、よく見れば土偶もある。たった1つだが、遮光器土偶がある。
何故異世界に埴輪がある?勇者か?え、勇者が埴輪?
ジャガイモ好きの勇者が居たのは知っているが、埴輪?埴輪は無いだろ?
気になり過ぎるので埴輪売りの元へ向かう。
店主は何処にでもいる様な中年男性(おっちゃん)。
「らっしゃい」
「店主さん、これ、何だ?」
埴輪を指差して尋ねる。
「ああ、ソイツは同じ7層の農村にいる芸術家の作品だな。全く売れないが、無下にできない相手なんで、仕方なく委託販売してるんだよ」
7層と言うのは、この国の階級制度における最下層。国の一番外側にある街や村の事だ。
1から7層まであり、1層が一番地位が高く、真紅帝国の中心に住んでいる。
「何でも、前世の記憶があるとか吹聴してて、その記憶を頼りに作ったらしいぞ。まあ、十中八九眉唾物だがな」
おっと、転生者の方でしたか。そうですか。
……それでも、埴輪を作ろうと思った経緯が謎だ。
「面白そうだな。製作者に会ってみたいんだが、どこに居るか教えてもらえるか?おっと、ソレ、1つ買うからさ」
転生者ならステータスチェックくらいしておきたい。
配下にしなくても、転生者は色々と話題に事欠かないし……。
「物好きな奴だな……。残念だが、ちょっと前に上層の貴族に連れて行かれちまったよ」
「貴族に連れて行かれる?そいつ、何をやったんだ?」
「さあな。ただ、この国では時々あるんだよ。貴族により下層の住民が上層に連れて行かれることがな。帰ってくることもあるらしいが、何をしていたのかは基本的に語らないそうだ」
転生者が上層に連れて行かれたのか。
一体、何をやっているのかね?
「なるほど、面白い話をありがとよ。それじゃあ、1つ売ってくれ」
「情報料のつもりか?このくらいの話なら、別に態々買わなくても良いぞ?」
「いや、普通に買いたくなった」
「マジかよ……。本当に物好きな奴だな。記念すべきお客様第一号だ。アイツも喜ぶだろうよ。帰って来たらの話だけどな」
と言う訳で、埴輪を1つ購入しました。
「本当に買ったんですね……」
「ああ、部屋に飾ろうと思う」
「え……?」
絶句するさくら。
L:普通に不気味で嫌なんじゃが……。
居候(エル)の意見は聞いていません。
飾ります。
全く関係のない話だけど、この後、謎の女性集団が埴輪を買い占めたそうだ。
もう1つ全く関係のない話だけど、配下のメイド達の部屋に埴輪が飾られているそうだ。
お揃い……のつもりなのかね……。
埴輪店を離れ、セラ、ドーラ、ミオの3人と合流した。
「沢山買いましたわ。皆さんも食べてくださいな」
《たべてー!》
セラは大量の食べ物を手に持っている。積み重なっているのに崩れない。
素晴らしいバランス感覚だ。無駄な技能とも言う。
「……ご主人様、それ何?」
ミオが埴輪に興味を示す。
「陶器ですわね。食器ですの?」
《かわいー!》
ドーラの感性が少し気になる。
流石の俺も、可愛いとは思っていない。
「埴輪だ。暫定転生者が作ったらしい」
「へー……。奇妙な事をする転生者も居たものね」
「マヨ……」
「ぐっ……。もうそろそろ、そのネタ止めて……」
マヨネーズでワンチャン狙って自爆した転生者のミオが呻く。
埴輪作るのとどっちがマシかな?
「考えておく」
「仁君、頑なに断言しないですよね……」
「まあな」
断言しなければ、どうしようと自由だからね。
「それと、暫定転生者は上層に連れて行かれたらしく、居場所は分からないとの事だ」
「……そう言えば、この国の皇帝も転生者なのよね?何か関係あるのかな?」
真紅帝国の皇帝、スカーレット・クリムゾンは転生者だ。
「可能性はあるが、今持っている情報だけだと、推測するにも精度が低すぎる」
「それもそうね。何なら、本人に聞けばいいわけだし……」
「ああ、それが一番手っ取り早いな」
「尋問でしたらお任せください」
この勇者(マリア)物騒である(いつも通りとも言う)。
「相変わらず、一国のトップ相手に簡単に言いますわね」
「仁君ですから……」
《ですからー!》
その後、しばらく街中をぶらついて、観光は終了することにした。
本日は『常盤の街』で一泊し、明日の朝に出発する。
宿はルージュ達が予約済みだ。
この街では最高級の宿(ホテル)であり、街の中心部、一等地に建っている。
俺達も名目上護衛なので、ルージュ達と同じ宿に泊まる。
合計14人の大所帯なので、5、5、4人で3部屋に分けた。
あまり分けすぎると護衛の意味も無くなるからな。
「疲れた……」
一番大きい部屋に全員で集まる中、ルージュがぐったりとした様子で言う。
「そんなに疲れるような事をしたのか?挨拶しに行っただけだろ?」
「その予定だったのですが、思いの他領主の上昇志向が強かったようでして……」
ミネルバに聞いたこの国の階層構造について説明しよう。
この国の住民は平民、貴族の分類の他に7段階の地位を持っている。
平民にとっては、7段階の地位=住むことのできる層となる。そして、自らの地位以上の層にある街に入る事は出来ない。外国の者も同様だ。
貴族は全ての層の街に入る事が出来るが、自らの地位を越える街では権力が弱くなる。
この地位は功績を立てる事で上げる事ができ、子供に引き継がれる。
街の領主は貴族だが、その地位は治める街の格よりも数段階高いのが基本だ。
この街の領主は、7段階の地位で言えば4層に当たり、更なる権力を求め、最上位に位置する皇族、ルージュに取り入ろうとしたそうだ。それはもう、全力で……。
「兄が選んだだけあり、領主としての能力は高いみたいだが、少々しつこすぎる。やり過ぎれば、逆に評価が低くなると言う事を分かっていないのか……」
「うん?スカーレットが選んだって言うのはどういうことだ?」
また、俺の知らないスカーレット情報が出てくるようだ。
根掘り葉掘り聞いている訳じゃないから、仕方ないと言えば仕方ないんだが……。
「また、折檻の可能性があるのか……」
「いや、そこまで重要な話でもないだろう。とりあえず、話せ」
「はい……」
『スカーレットに関連することで、重要な話を忘れていたら折檻する』という、以前の宣言はまだ生きているので、ルージュがビクビクしている。
「兄、スカーレットが皇帝になったのは今から約8年前なのだが、その時、大規模な粛清が行われたのだ。兄の『目』に適わない者は良くて平民落ち、罪を犯していたら処刑もあった」
「当時、皇帝に次ぐほどの勢力を持っていた大貴族すら、容赦なく処刑していました」
ミネルバの補足によると、それはもう大規模な粛清だったそうだ。
ただし、罪の重さ以上の裁きが下されることは無く、徹底的に公平だったとの事。
「今の領主の多く、代替わりしていない領地の領主は全員、兄が選んだのだ。私の知る限り、全員が有能と言って良いと思う。もちろん、野心は別の話だ」
この街の領主は特に野心の強い輩だったのだろう。
そして、それまでの領主が全員処罰されていると言う事も分かった。
「正直、スカーレット様の治世には不可解な点が多いのです。不正を行っていた貴族を粛正し、国内は随分と安定しました。その一方で、周辺諸国に小競り合いを仕掛け、不要なトラブルを招いています。何を考えているのか、全く分かりません」
ミネルバも首をかしげる。
「全くだ。せめて、ヴァーミリオン兄様が居ればな……」
妹ですら真意の分からない今、1番の理解者の不在が効いている。
何も考えていないとは思わないが、何を考えているかは分からない。
また、スカーレットの謎が深まっただけだったな。
「結局、スカーレットと話をしなければ何も確証を得られないって事か。スカーレットも相当な秘密主義だな」
「ご主人様程じゃないと思うわ。……案外、ご主人様と同じで、言わないんじゃなくて、言えない事が多いだけかもしれないわね」
言っても信じてもらえない。
言うと今の常識をぶち壊す事になる。
……可能性はある。
スカーレット、最終試練やこの世界の勇者についても知識があるようだし……。
「ますます、会うのが楽しみになって来たな……」
「一応、一回会ってんじゃん」
ミオが無粋なツッコミを入れる。
「あれは女王騎士(ジーン)だったからノーカン」
正直、ほとんど話も出来なかったから、会ったと言うのは抵抗がある。
「毎度のことながら、役作り(ロール)は徹底しているわね」
遊びには全力を尽くすよ。
折角、謎の騎士ジーンも有名になったんだから。
翌日、馬車で出発しようとする俺達に来客があった。
何と、この街の領主である(想定内)。
「ルージュ様、我が街の兵士が帝都まで護衛をいたしますので、そのような素性もわからぬ者を護衛にするのはお止めください」
挨拶もそこそこに領主(30代男性ややメタボ)がルージュに切り出したのはそんな話。
まあ、領主の言わんとすることは分からなくもない。
正直、俺達って護衛と言うには怪しいもの(高幼女率、軽武装)。
「1人とは言え、男を共にするなど、悪い噂でも流れたらどうなさるおつもりですか?腕利きの女性兵を集めましたので、その男を外し、彼女達を同行させてください」
領主の言わんとすることは尤もである。
ルージュも適齢期の女性だからね。
「噂など放っておけ。彼は私が最も信頼する人間の1人だ。彼を外すなど有り得ない」
ルージュがビシッと言い返す。
信頼していると言うか、信頼する以外の選択肢が無いと言う方が正しいかな。
まさしく、生殺与奪権を握られている訳だし。
「むう……。ルージュ様がそこまで仰るのでしたら、その男を外せとは言いません。ですが、せめて女性兵だけはお連れ下さい。ルージュ様程のお力はございませんが、寝ずの番、周辺警戒でしたらお役に立つはずです」
あ、一応ルージュって実力者って触れ込みだったね。
アホの子の印象しかないから、忘れていたけど……。
「それならば不要だ。彼らは私よりも強い。私に劣る者なら、足手纏いにしかならん」
「まさか!?ルージュ様よりも強いですと!? ……ルージュ様、失礼ですが、少々視野が狭くなっておられるのではありませんか?そのように何の威圧感も無い男が、ルージュ様より強いなどとは到底信じられませぬ」
威圧感?ああ、それなら意図的に切っていますよ。
ルージュ?ああ、それなら足の小指一本で殺せますよ。
《仁様、今何か怖い事を考えなかったか?冷や汗が止まらないのだが……》
ルージュからの念話。
《ルージュを殺す方法を少し考えていた》
《ひっ!?》
《冗談だ。どのくらい実力差があるか、考えていただけだ》
《そ、それなら良いのだ……》
そう言いつつ、ルージュの足が震えているのが見える。
「ルージュ様。よろしければ、その男の実力を測らせてはいただけませんか?ルージュ様を任せるに足る護衛なのか、確認したく思います」
領主の提案を聞き、ルージュから再びの念話。
《仁様、許してくれ!態とじゃないんだ!》
《罰なら私が受けます!ルージュ様をお許しください!》
ルージュとミネルバが必死になっているのは、俺を相手に貴族関連のトラブルを招いたからだ。
しかし、今回のはトラブルと言うより、起こるべくして起こったイベントだよな。
《今回の件は領主の言い分も間違ってはいない。俺が嫌いなのは、理不尽な貴族の言い分だけだから、そうでなければ文句を言うつもりはない》
《《ほっ……》》
俺がルージュと行動を共にすると決めた時点で、想定できる理(・)不(・)尽(・)で(・)は(・)な(・)い(・)イベントだ。
それに文句を言うのは、それこそ理不尽である。
「頼んでも良いか?」
「ああ、面倒だから、好きなだけ兵を呼べ。全員まとめて相手してやる」
ルージュと領主に向けて冷静、かつ自信満々に宣言する。
凄腕の冒険者アピールだ!
「だ、そうだ。彼の相手になると思う者を呼ぶと良い」
「そこまでの大言、後悔することにならなければいいですな」
そう言って領主が集めたのは、計19人の女性兵士。
人前で戦うのもどうかと思うので、領主邸の中庭で戦うことになりました。
「これだけで良いのか?それも、全員女性のようだが……?」
「構いません。彼女達はルージュ様の護衛にと考えていた兵士です。彼女達全員を相手にして勝てるようなら、足手纏いだというルージュ様のお言葉が正しいと言う事になります」
「なるほど、理に適っているな」
ルージュが納得したように頷く。
意外だ。……正直、あんな風に挑発的な事を言ったら、ムキになって兵士を総動員してきてもおかしくないと思っていた。
しかし、あの領主は冷静に、自分に必要な確認をすることを徹底した。
これはスカーレットの見る目が正しかったと言う事か?
配下になった当初のルージュよりもまともだぞ?
「大勢で1人を囲むのは正直気が進まないが、皇女様を任せる以上手加減は出来ない。刃を潰した剣だが、まともに当たれば軽傷では済まんぞ」
リーダー格っぽい女性兵が言う。
「いらん心配だ。怪我をする気もさせる気も無いからな」
「まさか?その恰好で戦うというのか?鎧は、武器はどうした!?」
俺が武器を持たず、軽鎧すら着けていない事に驚くリーダー(仮)。
「いらん」
「……本気のようだな。良いだろう。我々を舐めた事を後悔させてやる」
そして、領主の合図で試合が始まった。
「<恐怖>」
試合形式の細かい説明は不要だよね?
もう終わったから。
「『範囲清浄(エリアクリーン)』」
本邦初公開。
<生活魔法LV3>の『範囲清浄(エリアクリーン)』だ。
効果は読んで字のごとく、指定範囲をまとめて『清浄(クリーン)』する。消費MPは指定した範囲のサイズによって決まる。
……ええ、女性兵の皆さんはそういう状況です。
こうして、俺達は何事も無く『常盤の街』を後にすることになった。
領主も俺の実力を認めてくれ、「こ、これなら……、ルージュ様をお任せしても、あ、安心ですな……」と言ってくれたし、意識を取り戻した女性兵の皆さんは、ルージュに……俺に同行することを泣いて拒絶していた。
女性兵の皆さん、俺が近づくだけで震え、腰を抜かすのは兵士としてどうかと思うよ?
「ご主人様、1つ聞きたい事があるんだけど、良い?」
「おう」
「ご主人様、最近『英霊刀・未完』使ってる?」
「のう」
ミオの質問は出来れば聞かれたくない事だった。
「ついに気付かれてしまったか。ああ、ここ最近、全くと言って良いほど、『英霊刀・未完』を使っていない事に……」
「大物を相手にする時、ご主人様って素手で戦うし、悪目立ちするから、普段は見える場所に持っていないじゃない?さっきの決闘だけの話じゃなくて、ここ最近、使っているところ見ないなーって思って……」
まさしく、その通りだ。
ぶっちゃけ、剣で戦うよりも素手で戦う方が得意なので、ここ一番では素手を選ぶ。
神話級(ゴッズ)になり、存在感の増した『英霊刀・未完』は普段使いするには目立ちすぎる。よって、使う機会が激減してしまったのだ。
下手をすれば、聖魔鍛冶師(ミミ)の造った女王騎士(ジーン)用装備、『聖剣・アルティメサイア』よりも使ってないかもしれない。
「一応、人目のない場所で訓練する時には使っているけどな」
「はい、神話級(ゴッズ)同士の訓練、お相手させていただくことはあります」
「そうですわね。私(わたくし)も見ていますわ」
安全が確保された場所なら、マリアやセラも模擬戦に付き合ってくれるからね。
訓練を見ていなければ、使っているところを見る事も無いよな。
「あ、使ってはいるんだ」
「初耳です……」
個人訓練を見ていないミオ、さくらは知らなくて当然だ。
《ドーラはしってるー!》
ドーラは時々見に来る。
……どちらかと言うと、俺に付いて来ていると言った方が正しいか。
「ただ、実戦では全く使っていない。流石に災竜相手じゃ力不足だし、丁度いい相手もいないしで、使うタイミングが無いんだよ」
「災竜相手に素手で力不足にならない事の方が驚きなんだけどね」
それは今更な話だな。
「よし、決めた。次に出てきた魔物相手に『英霊刀・未完』を使う。とにかく、久しぶりに実戦で使ったという実績が欲しい」
「随分と雑に決めたわね。どう考えてもオーバーキル確定じゃない」
《ごしゅじんさま、でたよー?》
言うが早いか、比較的近くで魔物が出現(ポップ)した。
いくら帝国軍が魔物の掃討をしていると言っても、定期的に出現(ポップ)する魔物の完全な殲滅は困難だ。
ゴブリン
LV3
<身体強化LV1><棒術LV1>
備考:緑色の子鬼。魔物の中ではトップクラスに弱い。
「え?よりにもよってここでゴブリンなの!?」
「普通に考えて、神話級(ゴッズ)を使う相手ではありませんわよね」
「懐かしいな……」
思えば、この世界に来て最初に倒した魔物もゴブリンだった。
「思えば、遠くに来たものだ」
「え?何しみじみ昔を思い出しているの?倒すの?倒さないの?」
「倒す」
俺は『英霊刀・未完』を抜き、ゴブリンに向けて跳躍する。
「グギャ!?」
驚くゴブリンを無視し、<手加減>を使いつつ刀の峰でゴブリンを打ち上げる。
「ゴゲッ!」
100m近く飛んだゴブリンを追って俺も跳ぶ。
飛ばされたゴブリンよりも俺の跳躍の方が速いので、直ぐにゴブリンを追い抜く。
そして、空を駆けるスキル、<天駆(スカイハイ)>によって空中で方向転換し、ゴブリンと正面から向き合う。
「はあ!!!」
飛んでくるゴブリンに向け、『英霊刀・未完』を振るう。
「グギャアァァァ……」
断末魔は長く続かず、ゴブリンの蒸発ともに消えた。
あ、魔石……は要らないか。
「ただいまー」
戦闘を終えた俺は馬車に戻る。
「清々しいまでのオーバーキルだったわね」
「最初の一撃、態々<手加減>を使っていましたわね。明らかに不要でしたわ」
《ごしゅじんさますごーい?》
ドーラ、無理して褒めなくても良いんだよ?
「これで、『英霊刀・未完』を実戦で使っていないという問題は払拭できたな」
「できた……かなぁ……?」
ミオが首を傾げる。
出来たって事にしておいて。
「……改めて、活躍の機会を与えてやりたいな」
「それが良いと思うわ」
丁度いいボスキャラいないかな?
「後、セラにも活躍の機会を与えてやりたい」
「私(わたくし)ですの!?」
「セラもここ最近、戦闘という戦闘をしていないだろ?」
元々、戦力となる奴隷として購入したのに、最近は大食いキャラ以上の活躍をしていない。
細かい相手はマリアが、大物は俺が倒しているからな。
「いえ、ご主人様と行動していない時は色々な相手と戦っていますわ」
「そうなのか?」
「一応、この中では一番冒険者として活動していますし、レアスキルを持った魔物も倒していますわ。コレとか、コレとか……」
「知らなかった。これ、セラが手に入れてたのか……」
俺は大量のレアスキルを持っているが、その内の半分以上は配下が集めた物である。
時々、いつの間にか増えていたレアスキルを眺めるのが、隠れた趣味の1つだ。面白そうなら、使ってみることもある。
「最初の頃は活躍の機会を求めていたと思ったんだが……」
セラは奴隷にした当初、活躍の機会を今か今かと待ち望んでいた。
「過去の話ですわ。今は戦力が過剰になり過ぎているので、ご主人様の前で活躍するのは半ば諦めていますわ。ただ、何時でも戦えるよう、鍛錬は怠っていませんわよ」
「それはスマン」
現時点で、セラに活躍の場を与えるのは難しそうだよな。
「そうだ!同じく活躍の機会が無い『英霊刀・未完』をセラに持たせて戦わせれば、一石二鳥になるのでは!」
「ご主人様、『英霊刀・未完』はご主人様専用装備だからね?効果が無効になるわよ?」
そうだった。
普段は使わない種類の武器(しかも固有能力全無効)で戦わせたところで、どちらも活躍したとは言えないよなぁ……。